「国内人気とギャップが大きい」インバウンドに人気の岐阜県!その取り組みと魅力をご紹介
はじめに
コロナ禍で海外旅行が封じられ、旅行好きの行く先は国内へシフトチェンジ。感染拡大も落ち着いてきた今、今後はさらに活発な「Withコロナの観光旅行」がたくさん実施されることと思います。
皆さんが行きたい国内旅行先は、いったいどこでしょうか?
2021年度の「都道府県魅力度ランキング(以下、国内魅力度)」では、もはや殿堂入りといっていい北海道が今年も第1位を獲得。次いで京都府、沖縄県、東京都と、昨年と同じ布陣が続きます。
去年から数字を伸ばしてTOP10入りを果たしたのは、8位の長崎県。その他、宮崎県や新潟県、三重県、高知県、栃木県などが、昨年よりも順位を上げてきています。筆者の”推し県”長野は10位と、昨年より順位を下げたもののTOP10入りしており、嬉しい限りです。
さて、そんな中、36位にランクインしている県がどこだかご存じでしょうか?
ヒントは温泉、スキー、さるぼぼ、合掌造り……
そう、中部地方にある岐阜県です。
北陸新幹線が開通して以降、右肩上がりで人気となっている石川県をはじめ、周辺の県に行くための「通過点」となりがちな岐阜。筆者は冬の五箇山集落へ泊まりに行ったことがあり、非常に楽しく過ごしましたが、なんとなく「知名度が低い」「地味な感じ」「もうちょっと首都圏から近ければな…」など、大変失礼ながらあまり良い印象を持つ人が少ないような。
しかし!
そんな岐阜県の魅力を、日本人よりよく知っている人たちがいるのをご存じですか?
そう、訪日外国人観光客の皆さんです。
国内魅力度36位、でも訪日外客数は16位!
コロナ前の2019年、岐阜県は訪日外客数16位でした。
「そうでもないな?」と思うでしょうか。しかし、国内魅力度で同率10位にランクインしていた長野県と石川県は、訪日外客数では17、18位と岐阜県に後れを取っています。また、国内魅力度で8位にランクインしていた長崎県はさらに下の20位、筆者の大好きな牛タンが名物の仙台市を擁する宮城県に至っては、国内魅力度13位にもかかわらずTOP20圏外です。
そう、岐阜県は「日本人より外国人に人気のある県」なのです。
ですが、先に話した通り、他県に住む日本人が持つ岐阜へのイメージは、やや華やかさに欠けています。
しかも、岐阜には国際線が通る空港もなければ、新幹線の大きな駅もありません。言ってしまえば「交通の便もそんなに良くない」県です。実際に筆者が飛騨高山へ行った時も、現金払いのバス利用がメインでしたから、これが外国人にとってはそれなりのハードルになるのでは?と推測するのは難しくありません。
そんなハンデのある岐阜県が、どうして外国人観光客に人気なのでしょうか?
実は、岐阜県は高山市を中心に、古くからインバウンド招致のための施策を打ち出してきたという歴史があります。1986年に「国際観光都市宣言」を行い、およそ30年もの月日をかけてインバウンドへのアプローチを行ってきたことが、近年になって大きな成果を生んでいるのです。
では、岐阜県は具体的にどのような取り組みを行って、日本人にも伝わりきっていない魅力を外国人に伝えたのでしょうか?
岐阜人気の秘密その①:多言語対応だけでなく「多文化」対応
岐阜県高山市のWebサイトは、なんと11か国語に対応しています。このサイトは約25年前の平成8年から運用開始しており、高山市やその周辺の観光地を、写真を大いに活用しながら視覚的に紹介しています。
サイトを立ち上げた平成8年の訪日外客数は、およそ380万人。2019年の約8分の1程度しかいませんでした。そんな中で、いち早く多言語対応へ乗り出したのが、高山市というわけです。
また、高山市の多言語対応は、Webサイトだけにとどまりません。市について案内するパンフレットも、6~10か国語に対応しています。それだけでなく、国や季節ごとに題材を変えたパンフレットを作成し、ニーズに合わせた内容で高山市の魅力を紹介するという、パーソナライズしたマーケティングを実施しているのです。
例えば、英語版パンフレットであっても「南半球向け」と「北半球向け」があったり、中国語版は鮮明な色づかいを用いたりと、「その国の人が心惹かれて楽しく読めそうなパンフレット作り」を行っています。
多言語でのパンフレット自体は、今となっては珍しくありません。しかし、対象となる国や地域ごとに「刺さる」デザインやコンテンツを掲載して個別にアプローチを行う手法を取っているのが、高山市の優れた先見の明を表しているのではないかと思います。
岐阜人気の秘密その②:「安心して歩けるまちづくり」への取り組み
「多文化」対応パンフレットにも見て取れる通り、高山市のインバウンド向けマーケティングは非常に「顧客目線」が強いです。そして、この姿勢は街全体のインフラ整備にも活かされています。
多言語対応Webサイトを作成したのと同じ平成8年から、高山市はモニターツアーを実施。障がい者の方や外国人の方を招き、実際に旅行をしながらアンケート調査に協力してもらうことで、ユーザーの生の声を積極的に獲得しました。
高山市を訪れると、今なお残る風情ある街並みを散策することができます。それらが京都祇園や金沢の長町と同じように外国人観光客を魅了しているのは、想像に難くありません。また、世界遺産にも登録されている相倉・五箇山の合掌造りがある白川郷は、雪深く厳しい生活を余儀なくされた美濃の人々の暮らしを垣間見ることができ、冬場の景観の美しさも相まって非常に魅力的です。
しかし一方で、先にも書いた通り交通の便は東京や大阪周辺ほど整備されているわけではありません。道案内の看板や日常生活も、日常的に外国人がいる環境ではない以上、地元の人が居心地良い形であれば問題ないわけです。
そんな土地の居心地の悪さを見つけるには、土地を知らない人に教えてもらうしかないので、モニターツアーがどれだけ有用だったかは想像に難くありません。
高山市はモニターツアーで出た意見を踏まえ、交通情報や日常会話のフレーズなどを掲載したプラクティカルガイドの作成や、外国人の嗜好に合わせたお土産品の情報をまとめたガイドブックの作成を実施しています。
「外から来た人が居心地よく過ごせるようおもてなしをしよう」という暖かさも感じられる、素敵な取り組みです。
岐阜人気の秘密その③:積極的な誘客活動
高山市が取り組んだのは、街の整備や訪れた人へのサービスだけではありません。インバウンド招致のための積極的なプロモーションも、早くから実施していました。
2011年の東日本大震災後、全国的に訪日外客数が落ち込んだ時、高山市ではちょうど海外戦略室が立ち上がったばかりでした。
しかし、その戦略室を中心に「攻め」の姿勢に転じた高山市は、台北国際旅行博など海外の旅行博へ積極的に出店するほか、アジアの航空会社や大手雑誌、海外の日本酒バイヤーなどにもアピールを行い、高山市の地場商品や伝統文化を知ってもらおうと働きかけ続けてきました。
こうして説明してしまうのは簡単ですが、知名度がそれほど高くない中で海外から注目してもらえるようアプローチし続けるのは、非常に困難なことだと予測できます。パンフレットやモニターツアーにも見て取れますが、「戦略室」の名の通り、入念な準備や体制を整えて全力でプロジェクトを進めてきたのでしょう。
こうした高山市の尽力は、ミシュランへの三ツ星掲載という形で結果に表れています。
岐阜人気の秘密その④:周辺地域との協力体制
高山市の取り組みとして最後に紹介するのは、市内だけでなく近隣地域との協力体制を作り上げたことです。高山市の資料によると、近隣自治体との複数連携を行っていることが分かります。同県内の世界遺産・白川郷や近隣県である石川県金沢市・長野県松本市・富山県南砺市といった面々と、様々な面での協力体制を敷いているのです。
具体的な協力の成果としては、例えば繰り返しお伝えしてきているアクセス面の改善に繋げられています。高山市だけで取り組むのではなく、バス会社と提携して白川郷や金沢、松元などの近隣エリアとのパッケージチケットを販売し、すべての地域をお得に巡ってもらえるような仕掛けを置いています。
また、岐阜県から一番近い国際空港である中部国際空港と名古屋・金沢と共に、空路で日本を訪れる外国人に向けた招致活動をするための協議会を運営したり、ミシュラン三ツ星に認定された地域を「ミシュラン三ツ星街道」として観光振興に活用したりといった取り組みも。実に幅広く提携しているのがよくわかります。
岐阜県を含む中部地方は、土地が多く森林地帯・山岳地帯に囲まれ、首都圏からも距離があります。だからこそ、県単独ではなく隣接する県と協力して「チームでのアプローチ」を実施しているのが、非常に魅力的です。
ちなみに:国内魅力度が高いのに訪日外客数が少ない県は…
岐阜県は「国内ではマイナーでも海外人気は高い」県ですが、「国内人気は高いが海外ではマイナー」な都道府県はどこなのでしょうか?
データを比較してみると、
- 長崎県(国内魅力度8位、訪日外客数20位)
- 宮城県(国内魅力度13位、訪日外客数27位)
- 青森県(国内魅力度21位、訪日外客数32位)
- 宮崎県(国内魅力度17位、訪日外客数37位)
- 高知県(国内魅力度26位、訪日外客数47位)
などが挙げられます。
全体的に「東北」「南九州」「四国」でのギャップが見られ、原因として考えられるのは、
- 海/空の主要な国際線窓口から距離がある
- 車移動が基本であるなど、現地での交通の便に課題がある
- キャッシュレス決済の普及率が低い(ただし、宮城県は「現金以外の消費支出割合」で全国9位。また、九州は総じて低い傾向あり)
といったことがありそうです。
これ以外にも「宿泊施設の形態が外国人観光客のニーズを満たしていない」「多言語対応が進んでいない」といった見えないボトルネックも存在している、と推測できます。
まとめ:インバウンド招致のロールモデルから学ぼう!
インバウンド客を招致することには、メリットもデメリットも存在します。観光地が活気を獲得し、利益につながっていく一方で、異なる文化圏から訪れる人々とのトラブルや日本人観光客からのニーズとのバランス調整など、相応の課題も生じてきます。
しかし、インバウンド客が訪れる事に対する適切な対処方法も、お互いが満足できるおもてなしの方法も、岐阜県のように招致へ成功している県をロールモデルにすることで、活気や利益に繋げることができるのではないでしょうか?